介護を発信するムーブメントをつくりたい 3月19日公開の映画『つむぐもの』監督・犬童一利さんインタビュー!

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2016.03.04

犬童一利監督、映画『つむぐもの』のご紹介

つむぐもの犬童一利監督

映画監督・犬童一利さん
1986年生まれ。大学卒業後、会社員を経て2010年から映画業界に。
『つむぐもの』は『カミングアウト』(2014年)、『早乙女4姉妹』(2015年)についで三作目の長編作。

映画『つむぐもの』
妻に先立たれた無骨な越前和紙職人・剛生(石倉三郎)は、ある日、脳腫瘍で倒れてしまう。そこにワーキングホリデーでやってきたヨナ(キム・コッピ)。当初は越前和紙作りの手伝いをするはずだったが、剛生の介護をすることに。突然「介護」と向き合うことになった二人は、ぶつかり合いながらも徐々に心を通わせていく。やがてヨナの常識にとらわれない介護は、介護施設「なごみ」で働く介護福祉士の涼香(吉岡里帆)たちの気持ちにも変化をもたらす。

つむぐもの

ものづくりがしたくて会社員から映画監督へ

【横尾】映画『つむぐもの』を試写会で見させていただきました。

【犬童】ありがとうございます!多くのメディアが取材してくださり、介護をテーマにした映画作品が注目されていることを実感しています。

【横尾】最初、介護がテーマの映画と聞いていたので勝手に50・60代の監督さんを想像していたのですが、お若くてびっくりしました。犬童さんはいつから映画監督をされているのですか?

【犬童】映画業界に入ったのは2010年で、今年で6年目になります。映像の専門学校を出たというわけではなく、大学の商学部を卒業して一般企業で営業職を2年間やってから撮り始めました。世の中にメッセージを残すようなものを、いろんな人と一緒につくりたいという気持ちで映画をつくっています。今回の『つむぐもの』は3作目。全国上映できるのは初めてで、かなりの勝負作です。

【横尾】どうして「介護」をテーマに選んだのでしょうか?

【犬童】まず、福井県の丹南地域と韓国の扶余(プヨ)を舞台にした作品をつくろうということになったのですが、もう一つテーマが欲しくて。その題材を考えているとき、病に襲われる老夫婦の愛を描いた映画『愛、アムール』(ミヒャエル・ハネケ監督・2012年)を見たんです。今まで介護に全く触れたことのない僕にとっては刺激的なテーマでした。というのも、祖父母と暮らしたこともなければ、認知症の方と会ったこともなかったんです。その作品を両親がいる実家で見たこともあり、絶対にいつか自分事になると思いました。
そうしたら、プロデューサーの方々も「介護」を考えていたようで、すぐに話がまとまりました。そこからは取材の連続です。大学時代の同級生の脚本家(守口悠介さん)と2人で福井や韓国、介護施設に行ったり、くさか里樹さんの介護漫画『ヘルプマン!』を読んだり、いろんな人の話を聞いたり、ひたすら取材を重ねていきました。

犬童一利監督

初めて見た介護の現場にカルチャーショック…親世代の介護、多忙な職員

【横尾】これまで接する機会がなかった介護というテーマに向き合うことになり、介護の現場にたくさん行かれたと思います。カルチャーショックはありましたか?

【犬童】「超」がつくくらいありました。例えば、とある介護施設で一日働いたのですが、要介護4で認知症をお持ちの60代の男性がいらっしゃいました。僕の父親くらいの世代で、別の100歳に近い高齢の方よりも見守りとケアが必要なんです。とても衝撃的でしたね。

【横尾】自分の両親の姿に重ねると、衝撃を受けて当然ですよね。介護職員の方はどんな印象でしたか?

【犬童】職員不足で大忙しな姿が印象的でした。見学に行った都内の特養(特別養護老人ホーム)でも少ない人数で運営していて、例えば夕食後はとてもバタバタする。そんなとき、おばあちゃんの一人が床ずれか何かで腰のあたりから出血しちゃったんです。「あらら、こんなに血が出ちゃったよ」と職員の方が血をふいて処置をする間も、ほかの入居者を移動させなきゃいけない。「大変だなぁ」とただ感じるしかありませんでした。

【横尾】そうした介護のリアルな現場を映像化するのは、とても難しかったのではないでしょうか?リアルにこだわりすぎて暗く重くなる心配もありますよね。

【犬童】切り取り方の問題だと思うんですよね。暗い側面ばかりを描こうとするとひたすら暗くなってしまう。今回は基本的にはリアルを追求していますが、ドキュメンタリーではなくフィクションですから、物語として成立させることや感動を与えることとの塩梅が大切です。

犬童一利監督

「きれいごとな映画にはしたくない」リアリティとエンタメを両立

【横尾】作品づくりのお話が出てきましたが、『つむぐもの』を制作する中で特に意識したことはどんなことでしょうか?

【犬童】きれいごとな映画にはしたくないな、と最初から考えていました。介護を取り上げる映画は、超きれいごとみたいなタイプか、残虐な暗いタイプか、と二極化しているように思えます。この『つむぐもの』は、現場を映し出すリアリティを大切にしながらも、エンターテインメントとしても成り立つような、希望を抱けるような映画にしたいと思ってつくりました。
介護業界は、どうしても暗いイメージで考える方が多いのではないでしょうか。介護はこれからの日本で圧倒的に必要になる職業です。なのにどうしてこんなに偏見や誤解が多いのか。その認識を変えたい、と大層なことは言えませんが、ちょっとでも介護業界に対する見方や介護に向き合う姿勢が変わればいいなと思っています。

【横尾】介護現場の感覚からズレないように気を配りながら、ストーリーとして見る人を楽しませるわけですね。

【犬童】そうですね。同時に、介護業界の方が見たときに「うそっぽいな」と思われたくないという気持ちも強かったので、介護の現場をかなり細かく取材しました。それは介護の理想と現実にもがく涼香の姿に映し出されています。

【横尾】介護現場の涼香たちの描かれ方が、ほどよくリアルだなと思いました。「介護士じゃなくて介護福祉士」という説明が入るところや、介護の素人であるヨナに対するプライドの描き方も、その世界が凝縮されていると思いました。

【犬童】涼香役の吉岡里帆さんには、「利用者様」じゃなくて「ご利用者様」と言ってほしくて何度もやり直しさせてもらったことを思い出します。頭でっかちになっていたかもしれませんが、細かいところに僕はこだわっていたんですよ。ほかにも、介護職の方は腰を痛めやすいと聞いたので、腰を叩くような仕草を入れるようにしました。脚本を介護業界の方に読んでもらって、たくさんフィードバックをもらっていましたね。

吉岡里帆

「人と人との物語だよね」介護の本質に迫っているとの評価も

【横尾】試写会を重ねておられますが、どのような反響がありましたか?

【犬童】おかげさまで介護業界の方からの印象が良いんですよ。やはり介護業界の方がどう思うのかっていうのが一番気になるので「お芝居を見ている感じじゃなかった。日常を切り取った感じ」という声があり、まさにそういう映画を目指しているのでうれしかったです。

【横尾】犬童さんがこだわり続けた「リアリティ」が、そうした良い評価を生んでいるのかもしれませんね。

【犬童】「介護の映画じゃなくて、人と人との物語だよね」と言ってくださる方もいました。まさにそれこそが介護の原点、本質だと考えているので、ものすごくうれしかったんです。

【横尾】介護映画・ドラマ、という新ジャンルへの期待もあったのではないでしょうか。例えば医療だと映画やドラマがたくさんありますよね。そうした映画やドラマに影響を受けて医療の道を志した若者も多いはず。でも、介護にはそういう作品がまだあまりないように思います。

【犬童】そうですね。介護をメインに焦点を当てた介護映画って初めてに近いのかもしれません。人に焦点を当てた背景に介護がある作品はいくつかありますが。『つむぐもの』が「映画」×「介護」の代表作になってもらえたら嬉しいです。

【横尾】介護職の方にぜひ見てほしいですよね。

【犬童】そういう意味では、涼香のような若い世代の介護職の方に見てほしいですね。介護職には希望や大志を抱いて働き始めた人が多いと思うんです。ただ、しばらく経ったころ、つまり涼香世代の介護職の方は、いままさに現場が大変。最初のころの気持ちは、忙しさの中に隠れちゃっているのではないでしょうか。『つむぐもの』はその希望や大志を思い出すきっかけになったら嬉しいです。

つむぐもの

「つむぐ」という言葉が流行ってほしい

【横尾】介護業界で盛り上がる熱気を、それ以外の場にどうやって広げていくかも大切ですよね。

【犬童】『つむぐもの』には介護のほかに日韓や、越前和紙という伝統文化のテーマもあります。そういったほかのテーマを通して介護の世界に入ってきてもらえるといいですね。
役者の皆さんにもいい流れがあるんです。石倉さんは『下町ロケット』(TBS・2015年)に出て、吉岡さんは現在放送中のNHK連続テレビ小説『あさが来た』に出ています。それぞれの作品や役者のファンの方々にも見てもらえるのではと期待しています。

【横尾】最近は小説などほかの領域でも「介護」をテーマにした作品が徐々に増えてきていますね。

【犬童】この時代に求められる作品のテーマとして「介護」はどんどん広がっていくはずです。それから「つむぐ」という言葉が流行ってほしい。「つむぐ」って言葉としてはみんな知っているけど、日常生活では使いませんよね。でも「つむぐ」こそが今の日本に必要なものだと思うんですよ。
ただ消費されるだけじゃなくて、世の中にメッセージを残せる介護作品が増えるとうれしいです。僕自身も次は認知症をテーマにした映像をつくりたいと考えています。自分の親が認知症になったときにどう向き合うのか。作品を通して心の準備ができているだけでも違ってくると思います。受け入れ方や希望を見い出せるようなメッセージを込めたいですね。

犬童一利監督

介護は他人事ではない――介護について発信していくムーブメントを起こせれば

【横尾】3月19日の『つむぐもの』公開に向けて、最後に読者の方へのメッセージをお願いします!

【犬童】映画は見てもらって完成するものです。だから、見てほしいというのが一番。介護業界にいる方もそうじゃない方も。世代や国境を問いません。欲張りですが、本当にそう思える作品です。若手スタッフたちと一緒に丁寧につくった『つむぐもの』には、これからの日本にきっと必要なメッセージが詰まっています。
介護は誰にとっても他人事ではありません。僕たちの心の中にはすでになんらかの介護への思いがあるはずです。『つむぐもの』はその思いを表現する場を与えてくれると思います。見ていただいて、何か自分で介護に対して思うことがあれば、どんどん発信してください。みなさんが発信して拡散されていくムーブメントが大切です。自然と誰かに伝えたくなる映画として広がっていけばうれしいですね。

編集者の一言

いかがでしたでしょうか?会社員を経て映画監督になり、介護とは今までほとんど縁がなかった監督だからこそ描ける介護のリアルな姿。そして圧倒的な取材力が細かなところからも伝わってくる作品です。介護の仕事をしていたり、身近な家族の介護をしていたりしても、介護とはなにかを言い表すのはとても難しいものです。介護とは何か?そんな質問を投げかけられたときの一つの答えとして「『つむぐもの』を見てみてほしい」と発信していきたいと感じました!

「つむぐもの」上映情報

2016年3月19日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次ロードショー

  • 出演者 石倉三郎、キム・コッピ、吉岡里帆、森永悠希、日野陽仁
  • 監督 犬童一利
  • 脚本 守口悠介
  • 企画・製作統括 梅田一宏
  • エグゼクティブプロデューサー 吉田ときお/前田紘孝
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寄稿者

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横尾千歌

介護のほんね」ディレクター。介護の用語や介護関連の仕事のこと、高齢者向けの住宅事情など、今まで縁遠かった人でも読みやすいよう図や絵とともに情報を発信します。