老後の幸せって何だ!? 映画「桜の樹の下」田中圭監督インタビュー 日本の未来を本気で考えてみる#6

老後 , 高齢化 , 映画 , 福祉 , 桜の樹の下
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2016.04.07
田中圭監督

幸せな老後とは?日本の未来はどうなる?

昨年から不定期でお送りしている日本の未来を本気で考えてみるシリーズ。#5では介護職の専門性を切り口に、よりよい介護とはなにかを考えました。第6回目である今回は、少し話題を変え、幸せな老後とは何かについて考えてみたいと思います。

日本は世界でもトップクラスの超高齢社会です。2016年の今は約4人に1人が65歳以上の高齢者。高齢化はますます進み、2050年ごろには日本の人口の半数近くが65歳以上の高齢者になる・・・とも言われています。
若者が少なく、高齢者が多い国。それでは成り立たず、日本はもうダメになってしまうのではないかと思う方も多いのではないでしょうか?

私もそんな風に未来に対して漠然と不安を感じていた時に、とあるドキュメンタリー映画に出会いました。映画の舞台は、入居者の高齢化率がすでに7割を超え、その多くが一人暮らしという川崎市営団地。そこに暮らす4名の一人暮らしの高齢者の姿を追った作品です。

若者がいない街って成立するの?
一人暮らしってやっぱり寂しい?孤独死って不幸?
お金はたくさんあったほうがいい?寿命は長ければ長いほどいい?
そんな未来に対する疑問のヒントがたくさん隠れている映画「桜の樹の下」の田中圭監督にお話を伺いました!

団地の中は、ぜんぜん暗くなかった。明るく楽しく、泣いたり笑ったり。

桜の樹の下

【横尾】映画を見る前は、高齢化が進んでみんな何らかの福祉のサポートを受けている社会というのはどこか寂しいものだと思っていたのですが、映画を見て、それぞれにたくさんの幸せがあることに気づかされました。
撮影していてそのあたりをリアルに感じたことはありますか?

【田中】団地でひとりで暮らしている高齢者というと、「孤独」とか「暗い」イメージがあると思うんですけど、撮影していてぜんぜん暗いイメージがなくて。みなさん明るく楽しく、泣いたり笑ったりとかケンカすることもあって、私たちとそんなに変わらないじゃないかなという元気さが魅力的だと思いました。

【横尾】ある意味「健康」というか。程よく悲しさや怒りがあるけれどそれがまた幸せなんですね。

【田中】「自由」というのが強いと思います。誰かとつながりたい時につながればいいし、ひとりになりたい時はひとりになれる。彼らのイキイキとした生活を見て、こういう生き方もいいなと思いましたね。

ひとりだからこそ、強くてエネルギッシュ。

【横尾】映画の中のインタビューシーンを見ていて、それぞれの話にいろいろと視点を180度変えられることがあったんですが、撮影している間にもそういった視点が変わるような体験はありましたか?

【田中】撮りながらの変化でいうと、介護職の方などからよく「高齢者にエネルギーを持って行かれる」といったようなことを聞いていたんですが、私はここに通っている時に逆に高齢者からエネルギーをもらっていましたね。そっか、こういうふうに生きられるんだ、と。貧しいことやひとりで生きている孤独ではなく、人って強く生きていけるんだなと励まされて、私がどんどん元気になっていきました。

【横尾】なんとなく勝手に、高齢者をひとりぼっちにしてはいけないとか介護サービスを利用したほうがいいとか思いがちですが、ありのままのほうが意外と楽しそうなんですよね。そのエネルギーってやっぱり「自由」から来ているんでしょうか?

【田中】そうですね、自分でごはんを炊かないと誰も炊いてくれないというような。大庭さんはヘルパーさんも来て料理していきますけど、ひとりでも料理しますし、ひとりで生きようという力があるんですよね。

川名さん 大庭さん

つなげなくても、自然とつながっていく。そして密度の濃い人生になる。

【横尾】読者の中には、親の面倒は子がみるべきと考えている方も、一方でご両親の介護と仕事をうまく両立できずに悩んでいる方も、介護サービスをもっと活用したほうがいいと考えている方もいらっしゃいます。
映画の中に出てくる岩崎さんは、息子さんがいるけれど別々に暮らしている。川名さんはデイサービスに通い始めるけれど、どことなくしんどそう。こういった部分でなにか感じられたことはありますか?

【田中】岩崎さんは、息子さんの支えがなくても近くに関口さんのような世話を焼いてくれる同じく一人暮らしの高齢者がいる。団地はこういった支え合いが起こりやすい環境だと感じました。川名さんは最初にデイサービスに通いだした時はつまらなそうにしていたんですけど、通っているうちに楽しむようになるんですね。でも、だんだん症状がよくなって、デイサービスの日数も少なくなって、またひとりに戻るんです。その繰り返しはけっこう辛いのかなと思いました。

【横尾】却って一回接点が生まれてしまうからこその辛さですね。岩崎さんと関口さんは、誰かがつなげたんですか?それとも自然とつながったんですか?

【田中】撮影の行き来もあってお互いを知るようになったというのはあるんですけど、撮影に行っていない間にどんどん親密になってきて。作品の中でも描ききれなかった二人のエピソードがいっぱいあって、病院についていったり、体重を毎日チェックしてあげたり、一緒に暮らしたほうがいいんじゃないかっていうくらい親密でした。

【横尾】自分で自分の生きがいややりがいを見つけていく。だからこそ、平均寿命より短い生涯でも濃い人生になるんでしょうね。

【田中】やっぱり二人の出会いが大きかったと思います。(濃くしているのは)人の「つながりたい」という力なんじゃないですかね。

岩崎さん 関口さん

孤独死も、高齢化も、本人たちは気にしていない。

【横尾】団地の生活は、単純に「私はこれが好き」の連続が街全体の幸福になっているのかなと思いました。

【田中】そうなんですよね。本当に些細なことが支えになっていて、「趣味を持ちましょう」とかそういうものではない。孤独死や高齢化への危機感は、もちろん口に出していることもあるのですが、「でも実際、それを気にしてどうするの?」みたいな。

【横尾】孤独死については自治会長さんは危機感を持っている様子が伝わってきましたが、本人たちはずいぶんあっけらかんとしていましたね。

【田中】自治会長さんは、もし孤独死が起きたらまず部屋のカギを開けなければならない。でもその時には本人は亡くなっている。その立場の違いもありますね。

高齢者を撮る魅力は、その人の長い人生そのものが見えること。

【横尾】話は変わりますが、これからはどんな映画を撮っていきたいですか?

【田中】次に撮りたいと思っているのは、また高齢者です。高齢者という見方よりは、彼らの長い人生そのものが見えるのが私は面白いと思っています。たくましいと思う人は、人生の中でなにかキッカケや乗り越えたものが絶対にあって・・・それを見つけていくのがすごくいいと思うんですよね。今、ここに至るまでの経緯が面白い。

【横尾】撮影によってご自身の人生観も影響を受けることがあるのではないでしょうか?

【田中】あると思います。挫折や後悔というものがみなさんあって、それを乗り越えたという、「生きていれば大丈夫。いいことがあるから」というような楽観的なところは影響を受けている気がします。いろんなことに対して「大丈夫」と言われている気がするんですよね。

今20代のふたりが考える未来。

田中監督

【横尾】私は今29歳で、田中監督は28歳。私たちの世代って、年金もらえるのかなとか将来に対していろいろと考えることがあるかと思うんですが、田中監督はどんな風に考えていますか?

【田中】この映画を撮影している時に、私も老後この団地に住むんじゃないかと思っていました。一人暮らしになるかはわからないけど、もしひとりだったら、同じようにひとりの人がいる団地で暮らすのもいいなと思いました。お茶飲み友だちなんかもできそうですし。

【横尾】この映画に出てくる人たちを見ていると、こういう暮らしがあるならあんまり心配しなくていいのかなと思えますよね。
最後に読者の方にメッセージをお願いします。

【田中】この映画は、ふっと笑えるような明るいおじいちゃん・おばあちゃんに会いに来る感覚で劇場に来てもらえると楽しめると思うので、ぜひ来てください!

田中監督

編集者の一言
いかがでしたか?正直、この連載を始めた時は未来が不安でしかたがなくて、何かしなくてはいけないという強迫観念みたいなものがありましたが、「桜の樹の下」と出会ったことで吹っ切れて、明るく前向きな気持ちになれました。
自然で、自由であること。幸せな老後を生きる力はそういうところから芽生えてくるものなのかもしれません。

「桜の樹の下」上映情報

4月2日(土)より、ポレポレ東中野にて公開中!
ほか全国順次

©JyaJya Films、だいふく

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寄稿者

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横尾千歌

介護のほんね」ディレクター。介護の用語や介護関連の仕事のこと、高齢者向けの住宅事情など、今まで縁遠かった人でも読みやすいよう図や絵とともに情報を発信します。