日本の介護人材不足を突破する!フィリピン3000kmの旅

外国人技能実習制度 , 人材不足 , 介護人材 , 日本語学校 , フィリピン , ネクストブリッジ日本語学校 , 株式会社大樹
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2016.07.20
フィリピンに日本語学校を設立した株式会社大樹社長の金澤真弓さん

株式会社大樹 代表取締役社長の金澤真弓さん

未だ解決策が見えず深刻な人材不足に陥っている介護業界ですが、近い将来、外国人技能実習制度の対象職種に介護職を追加することが検討されています。そこで今回は、未来の日本に介護士を増やすため、いち早く単身でフィリピンに降り立ち、現地に日本語学校を設立した、株式会社大樹代表取締役社長の金澤真弓さんに学校設立までの経緯をお聞きしました。

4人の親を同時に介護!?

【深澤】金澤さんは、外国人技能実習制度に介護が追加されることを見据え、いち早くフィリピンに日本語学校を設立されたとお聞きしました。まず、そのことをお聞きする前に質問なんですが、金澤さんは何のお仕事をされているのでしょうか?

【金澤】私は、山口県で介護事業を行っています。株式会社大樹を母体としたグループで、下関市や山口市、防府市、長門市でデイサービスや有料老人ホームなど26事業所を運営しています。2006年に設立いたしました。

【深澤】大きく展開されていますね。創業される前は何をされていましたか?

【金澤】もともと私は看護師として長年勤めていました。しかし、とある理由からデイサービスを始めることになりました。

【深澤】その理由とは何ですか?

【金澤】ある日、嫁ぎ先の両親と自分の両親の4人を、同時に介護しなければいけない状況が目の前にやってきたんです。

【深澤】4人同時介護とは……想像するのも辛いですね。

【金澤】はい。当時は看護師として働いていたので、もし同時に4人を介護することになってしまったら、仕事を辞めることができない私には、どんなにしても不可能なことだと思いました。
有料老人ホームに預けることも考えましたが、入所となると1人当たり20万円前後のお金が毎月かかってしまいます。親の年金も少なかったので、その年金と自分の給料をあわせたとしても、毎月80万円の支払いはとてもできません。また看護師の仕事を辞めて、在宅介護をするにしても、家のローンなどの将来設計は、自分も働くことを前提として設計していたので、仕事を辞めて介護をするという選択肢はとれないと考えました。それに、そもそも4人を同時に介護するということは、私にはとても考えられないことでした。

【深澤】それでどうされたのですか?

【金澤】4人の親たちを介護しながら、さらに収入を得ることができる方法を模索しました。それで考えた結果、デイサービスを始めることで成り立つのではと思い、2006年に自宅で小さくデイサービスを立ち上げました。その後は、利用者も徐々に増え軌道にのっていきましたので、さらにデイサービスを3つ増やしました。また、毎月の家賃や食費がとにかく安く低価格で入所できる有料老人ホームも設立しました。

フィリピンに日本語学校を設立した株式会社大樹社長の金澤真弓さん

【深澤】たしかに、それなら収入を得ながら親御さんの介護もできますね。

【金澤】ご自身の親御さんの介護をしたくても、仕事があって自分にはできない、だからといって介護施設へ預けるお金はない。そのように、私と同じ境遇の人は多いだろうなと立ち上げより思っていました。

【深澤】有料老人ホームの家賃や食費などは、かなりお安くされていますよね。

【金澤】はい。働かなくても余裕のある家はいいのですが、一般的にはその余裕がないから働きに出ますよね。親の年金が少なければ、ご自身が働いて得たお給料の多くは、そのまま親の介護へと流れてしまい、自身の生活が成り立たなくなってしまいます。私と同じ境遇の方に手を差し伸べたかったのが、価格を安く設定する一番の理由なんです。

ネクストブリッジ日本語学校

【深澤】このご時世、金銭的に余裕がある方が珍しいですよね。価格が安いと助かる人も多いかと思います。それでは、フィリピンに設立された日本語学校についてお聞かせください。どのような学校なのですか?

【金澤】フィリピンにあるネクストブリッジ日本語学校では、外国人が日本で働きながら日本の技能を学ぶ「外国人技能実習制度」に対応できるよう、基本的な文章やゆっくりとした会話が分かる「日本語能力試験」の、全5段階で下から2番目のレベル「N4」の日本語力を、学習することができます。それに加えて、介護の基礎的な学習や日本の文化・生活・常識・価値観などの予備知識も身につけ日本へ送り出します。2016年3月より生徒募集を開始したばかりです。

フィリピンのネクストブリッジ日本語学校

【深澤】日本に来て何かと困ることがないように、しっかりとしたカリキュラムが組まれているのですね。学校はフィリピンのどこにあるんですか?

ネクストブリッジ日本語学校はマニラ首都圏のマカティ市にある

【金澤】学校はマニラ首都圏に属するマカティ市という場所にあります。大企業も多く集まり、人口は50万人以上で「フィリピンのウォール街」と呼ばれる副都心です。

深刻な人材不足

【深澤】なるほど。そもそもどのような背景があって、フィリピンに日本語学校をつくったのですか?

【金澤】介護施設を経営する立場として、介護職員の人材不足と質の問題は、ずっと心に抱えていた問題でした。それというのも、仕事に対して注意をした途端に会社を辞めてしまう人が過去に多かったせいで、どんなに職員の行動が理不尽なものだったり、世間から外れた非常識な行動だったとしても、私はそれに対して、職員に注意ができなくなってしまっていました。

【深澤】辞められてしまうのは、たしかに厳しいですが、それでも注意しなくては、会社にもその人にも成長はないですよね……。

【金澤】もちろんです。しかし、慢性的な人手不足で「辞められてしまっては困る」という意識が働いていました。過去には、休んでばかりでちっとも出勤してこない人や、なかには利用者さんの食事を勝手に捨ててしまう人も……。

【深澤】それでは悪循環ですね。

【金澤】サービスを向上させようと思っていても、職員の入れ替わりが激しければ、いつまでたってもそれも叶いません。なので、会社を辞められないように、グッと堪えていた時期もありましたが、やはり悪循環が続き、「これではすべてがダメになってしまう」というところまできてしまいました。

【深澤】いわゆる「どん底」ですね。それで、どうしましたか?

【金澤】少子高齢化とあわせ慢性的な人材不足の介護業界では、これ以上、日本人だけに限っていては期待が持てない。そこで海外に目を向けるようになりました。

単身フィリピンへ

【深澤】そのような事情から海外に目を向けるようになったんですね。

【金澤】まだまだ貧富の差が大きくその多くが発展途上国ですが、アジアの成長力は凄まじいものです。昔の日本のように、「昨日より今日、今日より明日」といったように、どんどん生活水準が上がっていきます。どの国にも活気があります。

【深澤】でも、なぜフィリピンだったのですか?

貧富の差が大きい途上国のフィリピンは、同時に成長力も凄まじい。日本での就業を希望する人も多い。

【金澤】当初、フィリピンに限ってはいませんでしたが、海外には何のツテもなかったので、まずはセブ島に住んでいる知人を頼りに、ワラをもつかむ思いでフィリピンへ行きました。
まずは、「フィリピンの人が日本へ行きたいと思っているのか」「私たちもフィリピンの方たちと仕事を一緒にできるのか」など基本的なことを知るために、知人から情報を聞くことが目的でした。

【深澤】うんうん。それでどうされました?

【金澤】それで知人から話を聞いた結果、フィリピン人の多くは、「日本に行って働くことができれば、所得が増え家族のために家を建てることができる」というイメージがあり、日本へ行きたいという人がまだまだ多くいることがわかりました。ですから、そのような気持ちがあるなら、私の介護施設でも一生懸命に働いてくれるのではと思い、フィリピンの人たちに賭けてみることにしました。

【深澤】一歩前進できたわけですね。しかし、フィリピンに日本語学校をつくるだけで、日本に介護士が増えるのですか?

【金澤】それだけでは増えないですよね(笑)。フィリピン人を受け入れるための機関が日本に必要です。といっても、当初、受け入れ機関のことは私の頭の中にはなく、学校をつくることだけに集中していました。なぜなら、学校の運営を現地の企業任せにすると、入学希望者が少ない場合やそもそも集まらないなどの理由で、いつまでたっても生徒が日本へ派遣されないリスクがあるのではと常に考えていました。そのため、まずは生徒を集めることが最重要任務なので、他のことは後回しにし、学校の設立だけを最優先に実行していました。

【深澤】うんうん。

ネクストブリッジ日本語学校

【金澤】しかし、フィリピンへ何度か通うようになって間もなく、厚生労働省から外国人技能実習制度の対象業種に介護職の追加を検討するとの話が出てきました。そうなってくると話は別。善は急げということで、外国人技能実習制度に向けて、実習生をフィリピンから送り、日本でも受け入れられる環境を準備し始めました。

【深澤】全体が動き始めたんですね。しかし、外国に学校を作るとなると、専門の知識やそれなりの人脈などが必要になってくるのではないでしょうか?

【金澤】そうですね。学校を作る知識はまったく持っていなかったので、海外でのビジネス経験が豊富な経営者仲間や「JETRO(日本貿易振興機構)」にも相談しました。しかし、それで進展することはなかったんです。

【深澤】困りましたね。

【金澤】その後、多々あったのですが、行動しているうちに、運良く現地でご活躍されている日本人の方と出会うことができました。その方に学校設立に対する私の思いを伝えたところ、興味をもっていただき、学校設立から今後の運営まで、ご協力をいただいているところです。

【深澤】巡り合わせですね。でも、その行動力が道を切り開いたんですね。

ネクストブリッジ日本語学校の現地スタッフ ―ネクストブリッジ日本語学校の現地スタッフ

ネクストブリッジ日本語学校の現地スタッフ

【金澤】はい、本当に良い出会いをいただきました。その方にご協力いただくようになってからは、立ち上げに関わる法律的な問題の解決やフィリピンの諸事情、ビジネスに取り組む姿勢や度胸、めげない根性などとにかく色々教わりました。その方以外にも、学校が開校となるまで多くの方にお力添えをいただき、今後についてもご支援してくださる方が増えています。皆さんには本当に感謝しているんです。

【深澤】それは嬉しいですね。現地で特に苦労されたことは何ですか?

【金澤】学校を設立するまでには、いくつかの許認可が必要でした。まずは学校法人を設立するための許認可。そして町から市まで順番に、行政から許認可を取得するまで2年間もかかりました。とにかくスピーディーに動いてくれないので、何度も何度も待たされてイライラすることが多かったですね(笑)。

国の壁を越えて、より良い関係を築いてほしい

【深澤】ゆっくりな国民性は長所であって短所でもありますね(笑)。日本に来たいという入学希望者はもう集まっているのですか?

【金澤】はい、フィリピンに行くたびに現地の方に、「日本で介護をやってみませんか?」と誘っていました。

【深澤】集め方がナンパですね(笑)。

【金澤】そうですね(笑)。声をかけて入学希望者が見つかると、その人に、「日本語学校が入学希望者を募集している」とフェイスブックに投稿するよう頼み込みました。その結果、口コミで広がり、今では50人以上も入学希望者が集まってくれています。

【深澤】口コミで50人も!それはすごいですね!

【金澤】でも、入学希望者の方たちの本当の気持ちは、日本よりアメリカへ行きたいという気持ちの方が強いんです。フィリピンは英語が共通語なので、言葉の壁がないアメリカに行きたいんですね。アメリカは移民も多く、人種に対する偏見も薄いので。
しかし、金銭面などで全員がアメリカへ行くことが叶うわけではなく、そこから溢れてしまう層があるんですね。そういった方たちにとっては、日本語を覚えることが高い壁だとしても、海外で稼ぐチャンスなんです。

【深澤】ハングリー精神ですね。

【金澤】フィリピンでは、一つの家族の人数がとても多いので、その分生活も大変なんです。だから、兄弟のうち優秀な一人に、海外で出稼ぎをしてもらいたいという事情があります。

【深澤】日本から仕送りがあれば生活が楽になりますからね。

入学希望者からは「とにかく日本で働きたい」という熱意が溢れ出る。

【金澤】入学希望者のみんなからは、とにかく日本で働きたいというメッセージが毎日のように届きます。そこには家庭のことを考え大事にする、フィリピン人の優しくてたくましい気持ちがあります。とても熱い気持ちを持っている方ばかりなんですよ。

【深澤】良い関係を築いているのですね。

【金澤】入学希望者の全員と、一度はご飯を食べる機会をつくっているんですよ。

【深澤】楽しそうですね。どんな会話をされるんですか?

【金澤】「彼氏や彼女はいるの?」と聞いたり、普通の日常会話ですね。フェイスブックでも毎日「おはよう」や「おやすみ」などのあいさつをしますよ。できる限り早く日本語に慣れるように、練習をかねてメッセージは日本語で送ってもらっています。

【深澤】最後の質問になりますが、いずれ日本に来ることになる実習生たちに、日本へ来てどうなってほしいですか? また、受け入れを考えている日本の介護施設には、どのような気持ちで実習生を迎えていただきたいと考えますか?

【金澤】そうですね。実習生の方たちには、日本を好きになってほしい、幸せになってほしいと願っています。そして、その希望を叶えるために、介護施設の方たちには、適正な労働条件や環境、待遇、そして精神的なケアにも心がけていただき、実習生と良い関係を築いてほしいと切に願います。

【深澤】日本の介護施設の方たちには、日本人と同じように、一緒に働く仲間として迎えてほしいですね。本日は、ありがとうございました。

※外国人技能実習生の受け入れをご検討している事業者様は、下記の電話番号もしくはリンクまでお気軽にご相談ください。

電話番号
日和協同組合:083-989-6117

リンク
株式会社大樹ホームページ:http://taiki-ltd.com/
ネクストブリッジ日本語学校:https://jlsnextbridge.com/

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寄稿者

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深澤裕之(LifePicks代表)

介護事業所向けにホームページ制作やメディア戦略コンサルティングを行う。介護の魅力的な道具を伝えるWEBメディア「グラムケア」、介護用品オンラインショップ「グラムケアストア」を運営。介護専門職の総合情報誌「おはよう21」制作ディレクター。コーポレートサイト