昨年、「介護のほんねニュース」で、株式会社アイムが始めた放課後等デイサービス「アインシュタイン放課後」を紹介しました。あれから1年、どのような変化があったのでしょうか?再びアイム代表の佐藤典雅さんにお話を聞きました!
「アインシュタイン放課後」を始めて1年
【中浜】改めて自己紹介をお願いします。
【佐藤】株式会社アイム代表の佐藤典雅と申します。ちょうど1年前に川崎市の宮前平で放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」を始めました。以前は、ヤフー株式会社でマーケティングの仕事や東京ガールズコレクションの企画をしていましたが、福祉という分野は初めてだったので、放課後デイを開いてどうなるかが全くわかりませんでした。
【中浜】実際に放課後デイサービスをやっていてよかったことはありますか?
【佐藤】私には、重度の自閉症の子どもがいるのですが、デイサービスは彼のためにつくったものなんです。だから、ほかの施設に入れるのと違って、気をつかわずに済むなと。それと、うちの子にとって通いやすいということは、ほかの子にとっても通いやすいということです。ほかのデイサービスに通っている方がうちに来て、お子さんが使いたいと言ってくれることがうれしいですね。
新しくつくった「エジソン放課後 高津」は、親が遊びに来るデイサービス
【中浜】新しくつくった「エジソン放課後 高津」について教えてください。
【佐藤】宮前平の教室をつくったあと、問い合わせがかなり増えてきたので「エジソン放課後 高津」というデイサービスもつくりました。もともとかなり古い建物でリニューアルが必要だったので、壁の色を塗ったり照明を増やしたりして、明るくおしゃれな雰囲気にしました。結果的に父兄のみなさんに喜んでもらえて、遊びに来てもらえるようになりましたね。
【中浜】普通、子どもを通わせているところに親が進んで訪れることってなかなか考えられないですね。
【佐藤】そうなんですよ。だから、エジソン放課後 高津は「大人がいたい空間」を目指しておしゃれにつくりました。
ITの力で子どもの可能性を引き出す
【佐藤】宮前平のときから、生徒がITスキルに長けていることはわかっていました。ただ、最初はYouTubeで動画を見るぐらいだったんです。でもそれが、子ども同士で見よう見まねでスキルアップしていって、Googleマップで自分の家の周りを調べたり、タイピングソフトで練習を始めたりするようになりました。一番大きかったのが、マインクラフトですね。仮想空間で自分の世界をつくれるからみんな楽しんでいました。そこからさらに進めて、高津にVR(バーチャル・リアリティ)を導入しました。もともと自閉症の子どもはいろいろなところに気が散ってしまって落ち着いて学習できない、座っていられない、みたいなことが起こるのですが、VRで閉じた世界をつくってあげることで、もっと集中できるんじゃないかなと。VRは視覚追跡ができるので、自閉症の子とそうでない子で視覚のパターンを検証する研究ができないかなとも考えて、研究機関に働きかけをしているところです。そういったことをやるためにも、まずは自分たちで触ってみようということなんです。
【中浜】自閉症の子は学習が難しいといわれていますが、デジタルの力で秀でているところにフォーカスしてあげれば、きちんと指示を守ることができるんですね。
【佐藤】大人は一概に自閉症の子を学習能力がないと決めつけがちですが、自分の興味があることは積極的に掘り下げられるんです。おそらく、一般的に自閉症の子に対して療育が難しいといわれているのは、普通の子の反応を自閉症の子に期待するからだと思います。彼らの世界から見たら、自分は何もおかしくないんですよ。
親がいい表情になるのが一番の療育。親が人生を楽しめるように
【佐藤】子どもは悩んでいないのに、親が子どもの自閉症を不安に思ったり悩んだりしている場合が多いんです。ただ、そんな親の気持ちもわかる。だから最近、力を入れているのは、父兄の意識を変えていこう、サポートしていこうというところです。親がいい表情になるのが一番の療育なのではないかと。そういう意味で、父兄が楽しめる環境づくりをやっていきたいんです。
【中浜】具体的にはどのようなことをしているのですか?
【佐藤】月2回、専門家を呼んで父兄向けの講演会を開いています。そのあとはみんなでお昼ごはんを食べに行っています。講演では2種類の方を呼んでいます。一つは発達障害に関して活動をしている専門家。親の情報収集力は限られているからです。建前の情報ではなく業界の人の本音に触れてもらいたいなと。もう一つは、お母さんたちが楽しめるもの。つい最近はアロマ教室をやりました。
お昼ごはんはとてもおもしろくて、たいてい、障害を持った子どもの親が集まると相談や悩み話で終わってしまうところですが、全然関係のない話で大盛り上がりするんですよ。それが一番健全な姿なのかなと。やっぱり親が自分の人生を楽しめなければ、子どもの人生も楽しくならないと思います。うちの施設にはお母さんがよく来てくれるのですが、通い始めは暗い雰囲気だったのがしばらくすると明るくきれいになっていくんですよね。
【中浜】ほかにはどんなことをやっているのですか?
【佐藤】年に2回ほどバーベキューをやったり、忘年会や新年会を開いたりして、家族が集まるイベントをつくっています。父兄同士が顔合わせをする場が多いですね。自閉症が大変に見えるのは、多動症の波がピークの小学1年生前後。その後は次第におとなしくなったり喋ったりするようになるのですが、親にはネガティブな情報しか集まらないから不安に思ってしまう。うちの施設は小学生から中学生までいろいろな年代の子がいるので、世代を超えて情報共有ができるんです。
【中浜】経験がない人にとっては不安でしかないですから、経験した人からの話が聞けるのは心強いですね。
【佐藤】もう一つ気づいたのは、お母さんに対するプレッシャーがあまりにも大きいこと。周囲からプレッシャーが増えて、悩みが増大してしまうんです。それが子どもによくない影響を与えてしまう。だから、お母さんに対する療育が大切だと思うんです。だから、うちの施設では親子セラピーを始めました。自閉症の子どもの子育て経験がある親御さんにコーチングをやってもらったり、精神科医と心理カウンセラーのネットワークをつくってアドバイスを受けられたりするようにしています。
「普通」を目指すのではなく、それぞれの暮らしやすい環境をつくっていく
【中浜】この一年、さまざまな気づきを積み重ね、実践したことも結果を出してきているように見えます。今後の展望を教えてください。
【佐藤】どうやって普通に近づけるかよりも、どうやってその子の特性に合わせて暮らしやすい環境をつくってあげるかのほうが自閉症の子にとっては重要だと思います。うちの子は来年から高校生なので、通いやすい高校はなんだろうと考えるようになりました。その結果、支援学校はちょっと難しいだろうなと。だから、来年春から自前で明蓬館高校の分校を溝の口につくることにしました。今までもそうでしたが、うちの子の必要に迫られて必要なものをつくっていくという方針なので、高校の次は就労支援になるでしょう。僕たちが知らない能力を持っているというだけで、劣っているとか困っているとか決めつけてしまうといったことから距離を置いて、これからも新しい視点でものごとを考えていきたいですね。
そして、今年の秋に小学館から自閉症の子育ての本を刊行します。子育てを通して経験したこと、放課後デイで気づいたことを書いているので、そちらもよろしくお願いします!
編集者の一言
ノリさんの一年ぶりのインタビューでしたが、とんでもないスピード感を持って前進しているアイムを知ることができました。家族へのサポートを大切にする、自閉症の子どもたちの特性を生かす。これまでなかなか目を向けることがなかった部分へのアプローチで、理解者がどんどん増えている気がしています。さらに、岡山という地方に向けてのチャレンジもスタートを切ったそうですよ。首都圏だけでなく地方でも自分らしくいられる場所づくりに向けて、皆様のサポートもお待ちしております!
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この記事の寄稿者
中浜 崇之
二代目編集長。介護福祉士、ケアマネジャー。2014年に世田谷デイハウスイデア北烏山を立ち上げる。2010年より「介護を文化に」をテーマに介護ラボしゅうを立ち上げ運営中。(http://kaigolabo-shuu.jimdo.com/)