インタビュー

福祉をブランディングでフルリニューアル NPO法人レジスト理事長 斉藤剛さんインタビュー

神奈川県川崎市にあるフクシアンテナショップであるブレーメン。福祉のお店とは思えないような鮮やかなブルーの外観がお店の外からも目立ちます。どのようにしてこんなにお洒落な福祉のお店が生まれたのでしょうか?NPO法人レジスト理事長の斉藤剛さんにお話を伺いました。

斉藤剛さんのインタビュー

福祉のお店と思えない!?「フクシアンテナショップのブレーメン」とは?

神奈川県川崎市にあるフクシアンテナショップであるブレーメン。福祉のお店とは思えないような鮮やかなブルーの外観がお店の外からも目立ちます。中に入るとお洒落なティファニー・ブルーとサーモン・ピンクの空間。天井にはシャンデリアが並ぶブティックのようなインテリア。

どのようにしてこんなにお洒落な福祉のお店が生まれたのでしょうか?NPO法人レジスト理事長の斉藤剛さんにお話を伺いました。

偶然見つかった商店街の空き店舗。だけど販売は素人

インタビュー写真

中浜:もともと福祉の仕事をしていたんですか?

斉藤:福祉科の大学を卒業してから社会福祉法人に入り、知的障がいの作業所で3年、老人ホームで3年、精神障がいの作業所で3年と、障がい者福祉・高齢者福祉の仕事で経験を積んできました。その過程でピアサポートという考え方に出会いました。
ピアサポートは、同じ障がいを持つ人たちがサポートし合う、自助グループです。当時は社会福祉法人に勤めながら自助グループを立ち上げる活動をしていたのですが、次第に独立を検討するようになりました。そこでピアサポートの実践の場としてどんな形が一番マッチするか考えて、障がいを持つ人たちの働く場所にも居場所にもなり、ミーティングもできる喫茶店がよいのではないかと考えました。そうして最初に立ち上げたのが就労継続支援B型の喫茶店です。
それで喫茶店ならコーヒーを出したいし、自分自身もコーヒーが好きだし、という単純な発想でコーヒーの焙煎もするようになりました。

就労継続支援B型とは・・・障がいを持つ人が働きながら知識・能力を向上したり、集ったりする場。

中浜:コーヒーの焙煎と喫茶店からスタートしたわけですが、このお店はどうして作ったんですか?

斉藤:喫茶店とコーヒーの焙煎を始めてしばらくして、不動産屋さんから偶然、商店街に空き店舗が出たからなにかやってみないかと声を掛けられたんです。ちょうどもう少しコーヒーの販路を広げたいと思っていたので、最初は喫茶店をまた1店舗作ろうと準備を始めました。
ところが、直前にその空き店舗は飲食店では設置許可が降りず小売店しかできないことが判明して・・・そこで発想を切り替えて、ピアサポートの小売業でなにができるか考えた結果、全国の福祉作業所などから商品を集めて販売するショップをやろうと思ったんです。

中浜:お店を始めてからは順調だったんですか?

斉藤:僕らは福祉の専門で、販売は素人です。試行錯誤しながらやってみますが、簡単にうまくいくわけではありません。せっかくやってきたのだしもう少しやってみよう、と考え、知り合いにマーケティングのコンサルティングをお願いしました。そこで紹介されたのが株式会社アイムの佐藤典雅さんです。
アイムさんは川崎市で全く新しいアプローチで福祉に取り組んでおられ、代表の佐藤ノリさんが「福祉はデザインで変わる」といっておられたのが新鮮でした。話を聞いてみるとファッション業界でブランドやイベントをプロデュースをされてこられた経緯があり、自分たちにはない視点を持っておられるので、お任せしてみようかなと思いました。

ダサい・・・プロのマーケターの力を借りてお店をフルリニューアル

お店をフルリニューアル

中浜:初めて佐藤ノリさんにお店を見てもらった時はどんな反応だったんですか?

斉藤:最初は”優しい言葉”というより・・・もう3日間ほどおなかが痛くなるくらい、「なんだこのダサい店舗は!」と(笑)。その頃はよく言えば手作り感満載、つまりチープな作りの店舗だったんです。でもマーケティングをしっかりしないと、このままではお店が潰れてしまう。働いている人のためにも地域の人のためにも始めたお店を閉店するわけにはいきませんから、リニューアルを決意しました。

中浜:リニューアルということは、けっこうお店のイメージを変えましたか?

斉藤:あとかたもないくらい変えました(笑)。内装も、ターゲティングも、自社商品のパッケージも、全部総入れ替えです。扱っている商品をつくる全国の作業所にもこんな風に売り出したいと一軒一軒お願いをし、パッケージづくりに協力してもらいました。

リニューアル前の店舗

中浜:ターゲティングということは来店するお客さんにも変化がありましたか?

斉藤:若い女性層をターゲットとして、ミュージアムショップに行くような感覚、パケ買いしたくなる感覚を想定しました。最初は高齢の女性客が多かったんですが、リニューアルしてからはベビーカーを押したご夫婦や、若いカップル、女性グループが外から「かわいい」と言いながら来店することなどが増えました。もちろん昔からのリピーターも多いです。

ブランディング、コンセプト、ストーリー・・・まるで別の星に行くような感覚

リニューアルメンバー

中浜:リニューアルはどのように進んだんですか?

斉藤:実は2017年の間に2回リニューアルをしているんです。最初は1月にクラウドファンディングで資金を集めて自分たちで実行しました。その時にこの棚を取り付けるところまではやったんですが、そのあと佐藤ノリさんのチームと内装のカラーリングなどを洗い直してもらい、もう一度棚を外して塗り替えて・・・と、大掛かりな工事を8月にもう一度しました。

斉藤:アイムさんの進め方は、僕らには衝撃的でしたね。まずブランドを立ち上げ、そこから店内、内装、商品を考えていく。アイムさんが率いるチームは美容業界出身のデザイナーで、視点が常にブランドを起点としているんですよ。福祉にはまったくない視点で、まるで別な星に行くような感覚でした(笑)。佐藤のりさんは特に福祉が一番弱い「華」を常に意識していて、アイムが送り込んできたチームも華をもった方々でした。
実際にやってみると、お客さんが惹かれるのは確かにブランディングやコンセプト、ストーリーなんです。それにやはりセンスのある商品は不可欠です。物が売れない時代にその視点がないと残っていけないなと強く感じました。さらには強いブランドを創ると、色々な方とコラボできる事業所の吸引力が増すということも驚きでした。

リニューアル検討中 はちみつ研究家として著名なはちみつ姉妹とオリジナル商品Melody Honeyの開発

つくれるものと、売れるもの。どちらが両者ハッピーになれるのか

店頭の様子

中浜:先ほどほかの作業所にもパッケージ変更などのお願いをしたとおっしゃっていましたが、やり取りする中でどんな印象を持ちましたか?

斉藤:自分たちもそうでしたが、今となってみると、福祉の立場では「この作業ができるか」という視点で考えて物をつくっているんです。このパッケージはお客さんにどう受け入れられるか、というお客さんの視点が足りていないんですね。商品をつくることより、つくる人にできるかどうかが中心で、パッケージにこだわらない分、妙に原材料にこだわってしまったりする。そんな気づきがありました。

福祉イベント『LIVES』

中浜:福祉の場合は、お客さんがふたりいるというか、つくる人も買う人もどちらの見え方もありますよね。どちらに焦点を合わせるかというと、お客さんに合わせることで売上になり、それがつくる人の働く場や賃金につながり、両者ハッピーになれるように思います。売上にも変化はありましたか?

斉藤:売上は数ヶ月で3倍以上になりました。やはりお客さんがどう感じるかが大きく影響しますね。それと重要なことなのですが、ブランド変えをしてから取材の依頼や商品取扱の問い合わせが増えました。去年はミッドタウンで主催された福祉イベント『LIVES』に招待されるなど、自分たちの活動もより活発になりました。明らかに様々な方々から福祉に対する関心を持っていただけるようになりました。
新しいブランドの評判を聞いて川崎市長も店舗に視察に来てくださったりで、スタッフも驚きです。さらにもっと驚いたのは安倍昭恵夫人に関心を持っていただき、安倍首相コラボのコーヒーまでできちゃって(笑)。明らかにこれはうちが強いブランドを創れたからこそ起きた現象で、ブランドの力というものを目の当たりにしました。

中浜:ブランドによって売る力だけでなく、社会認知にもつながるということですね。ところでこのコーヒーというのはお客さんだけでなく、つくる人にもマッチしていますよね。

斉藤:コーヒーは、つくる人にとってもかなり相性がいいんです。ここで働いている人たちは精神障がいを持っていますが、みんなの繊細さがコーヒーを焙煎する仕事に生かされています。また、薬を飲んでいる人や睡眠の悩みを抱えている人も多く、コーヒーは好きだけどカフェインが気になるからあまり飲めないという話がミーティングで出たんですね。そこでデカフェ(豆の段階でカフェインを抜いたもの)のコーヒーも用意することにしました。こうして商品の幅にもつながっています。
ここでは一人ひとりが手作業でコーヒーを焙煎しているので、それほど大量生産はできません。でもコーヒーは鮮度が大切ですから、少量ずつつくるのが向いています。

はちみつ研究家として著名なはちみつ姉妹とオリジナル商品Melody Honeyの開発

悩みながらも積み上げていく成功モデル

中浜:まだこちらのような考え方でやっている福祉の現場は少数だと思います。これからやっていきたいことや考えていることなどはありますか?

斉藤:ここでやっていることは、ほかの場所にも持っていけるモデルだと思っています。こういう視点で売るモデルが全国に広まれば、またその商品をこのお店に集めてさらに広めることができます。

中浜:斉藤さんにとって解決したい課題はどんなことですか?

斉藤:精神障がいを持つ人は、なかなか自分の病気を公表して世に出ていくことが難しいので、できるだけ病気を表に出して働ける場をつくりたいと思っています。
お店でやるやり方が福祉なのか、日々悩みながらやっています。悩みながらもなんとか形にしたい。課題を解決したい。成功するか失敗するか、僕らもまだこれからですが、これからも続けていけたらと思っています。

中浜さん・斉藤さんインタビュー写真
中浜 崇之

この記事の寄稿者

中浜 崇之

二代目編集長。介護福祉士、ケアマネジャー。2014年に世田谷デイハウスイデア北烏山を立ち上げる。2010年より「介護を文化に」をテーマに介護ラボしゅうを立ち上げ運営中。(http://kaigolabo-shuu.jimdo.com/

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