認知症ライフサポートのすすめ ニッセイ基礎研究所 山梨恵子さんインタビュー

認知症 , 新オレンジプラン , 認知症ライフサポート , 多職種協働
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2015.04.10
認知症ライフサポート 認知症。
身近にいないから全然分からない、という人もいれば、家族や地域の人など、介護や医療の現場でよく接している、という人もいるのではないでしょうか。認知症の患者数は高齢化とともにますます増え、10年後の2025年には700万人になるとも言われています。そこで今、国では「新オレンジプラン」をはじめとする認知症の方をサポートする仕組みづくりを始めています。そしてそういった施策の中で言われているのが「認知症ライフサポートモデル」です。
でも、“治療”でも“介護”でもなく、“ライフサポート”って?
厚生労働省とともに認知症ケアの研究をしているニッセイ基礎研究所の山梨恵子さんに、研究内容や認知症ライフサポート研修・テキストブックについてお話を伺いました!

お話を伺った方
山梨恵子さん 山梨 恵子さん
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

その人の困りごとに気付いて接する

― 研究の内容やテキストブックを制作した経緯を教えてください。
たとえば「お金を払わないで商品を持って帰ってしまう」とか、「ゴミの出し方が違う」「わけの分からないことばかり言う」など、多くの場合、認知症という病気は周囲の人にとっての「困りごと」として捉えられてしまいがちです。でも、見方を変えると、最も困っているのは認知症の人自身だということに気づきます。「知っているはずの人の顔が分からない」「切符の買い方が分からない」「どこに行こうとしていたか忘れてしまう」。生活の中で分からないことや、出来なくなってしまうことが増えていくことで、認知症の人自身がものすごく不安な気持ちで過ごしているはずです。その困りごとや不安な気持ちを受け止めて、認知症の人にとっての生活のしづらさを少しでも減らしていくことが、オレンジプランの目指す「認知症の人にやさしい地域づくり」だと思います。

「認知症ライフサポートモデル」という言葉は、「認知症サービス提供の現場からみたケアモデル研究会」の中で生まれました。認知症ケアの現場は、この十年、二十年の間に大きく進化してきました。それは、介護者都合のケアから、認知症の人自身の "思い" や "困りごと" に視点を置いた「本人本位のケア」への転換だったと思います。でも、ケアの質が進化する一方で、その進化についてこられない現場があるのも事実です。認知症ケア現場は二極化している。その課題を解決するためには、地域の中にいる様々な専門職がつながって、医療も介護も一緒に、認知症の人のより良い状況を作り出していく「場づくり」や「関係づくり」が重要なのではないかとの思いで、この研究会は進められてきました。

あえて「認知症介護」ではなく、「認知症ライフサポート」という言葉を使っているのは、認知症の症状に対応するケアを目指すのではなく、それぞれの人が大切にしてきた生活や人生を尊重するケアを皆で目指したいと考えたからです。
その第一歩として、「認知症ライフサポート研修」は、認知症の人とかかわりを持つ様々な専門職が出会える場づくりを意識したプログラムとなっています。映像による演習事例を収載していることもあり、「認知症の人を支えていくとはどういうことか」を考えていただくための素材として、とても分かりやすい内容になっていると思います。多職種協働研修のテキストとしてだけでなく、それぞれの職場でのちょっとした勉強会や個人学習などにも活用いただければと思います。

ライフサポートで大切な3つのこと

― ライフサポートについてお聞かせください。
1つ目は、認知症の人の思いに目を向けることの大切さを、みんなの共通ベースとして持つこと。
本人本位のケアはこれまでも介護の現場ではよく言われていたことですが、医療でも地域でも家族でも、こうした考え方の共通ベースを作ることが大切です。
それから2つ目は、連携すること。認知症の人を支えていくうえで大切なのは、なるべく多くの人がつながって、誰かが一人で抱え込まないようにすることだと思います。認知症は、生活障がいとかコミュニケーション障がいという側面だけでなく、脳の機能障がいという側面が強いので、医療の関わりもかかせません。だからこそ関係者がチームになって連携・協働を進めていくことが必須になると思うのです。そのことをこのテキストでは「多職種協働」という言葉で表しています。
そして3つ目は、認知症の人とできるだけ早期のうちにかかわりを持つこと。今までは、本人も家族も「あれ?おかしいな」と思ってもギリギリになるまで頑張ってしまい、どうにも耐え切れなくなってから専門職につながってくるケースが多くありました。家族に負担が掛かったり本人にプレッシャーが掛かったりして、悪循環が起きていることも少なくありません。介護が困難な状態になってから引き戻すのは大変なことです。そうではなくて、認知症の人の不安な気持ちを受け止めたり、混乱をまねきやすい生活環境を見直したりしながら、症状の悪化を予防する。これまでの手遅れ型のケアから、備え型のケアに変えていこうというのが、認知症ライフサポートで伝えたい大切なメッセージの1つになっています。

バラバラだった人たちが、同じ想いにつながる研修

― 認知症ライフサポート研修ではどんなことをするのですか?
この研修は、6人ぐらいのグループワークで進めます。地域包括支援センターの職員、ケアマネジャー、介護職、民生委員等の生活を支えている専門職と、医師、看護師、薬剤師、リハビリ等の医療に携わる専門職とが一堂に会し、投げかけていくテーマにそってディスカッションを繰り返していきます。知識を学ぶための研修というよりは、専門職ごとの視点や考え方を出し合い、相互の理解を深めていく内容になっています。
研修会は、テキストブックの付録にあるDVDの流れにそって進めていけば簡単です。「75歳のハマ子さん」の演習事例と「70歳のハマ子さん」の演習事例は、どこにでもありがちなケースだと思いますが、多職種がそれぞれに捉えた視点を出し合い、「この人」に対してなにができるかということを話し合ってみると、それまで気づかなかった他の専門職の考え方や役割が見えてきたりもします。
また、通常ならば、70歳、75歳と、経過にそって事例検討を進めていく研修が多いかもしれませんが、この研修では、「75歳のハマ子さん(中等度)」のビデオを観てから、「70歳のハマ子さん(軽度)」の時代へとタイムスリップします。普通ではあり得ない過去のハマ子さんに出会ってもらうことで、認知症の早期に出会い、生き生きとした表情で生活している本人の姿を知っていることがいかに大切かということを一緒に考えたいという意図があります。「手遅れ型の支援」から「備え型の支援」への転換は、この研修で伝えていきたい大切なメッセージの1つです。

その人らしい生き方をつなげていく

― よく、馴染みの暮らしを支えていくことが大事という話を聞きますが、いかがでしょうか?
新しいことがなかなか覚えられなかったり、新しい環境に適応しにくかったりする認知症の人も、馴染みのある暮らし方や生活環境の中でなら混乱も少なく、自分の力で出来ることがたくさんあります。ケアの現場で、ご本人の人生歴や生活習慣、趣味・嗜好などを大切にしているのもそうした意味があります。
ただし、現実には、症状の進行に伴って認知症の人の居場所が馴染みのある場所からどんどん遠ざかっていく状況は否めません。自宅からグループホームへ、グループホームから老人ホームや病院へ。そうなると、認知症の人の周りには、地域の中で生き生きと暮らしていた頃の「その人の姿」を知る人は誰もいなくなります。その人らしい暮らしって何だったのか、その人が大切にしていたことってなんだったのか、介護するうえでのヒントになることや情報が途切れてしまう。だから、なるべく認知症の人の居場所を変えないようにする努力が大切になるし、移動する場合にも情報のバトンをつなぐことを忘れないようにすることが重要だと思うのです。多職種連携は、そうしたところにも大きな意味があります。

― 中には、すでにこうしたことを実践していて当たり前になっている人もいませんか?
認知症ライフサポート研修の中で伝えようとしていることに対して、「あたりまえ」とか「目新しいことは何もない」と感じる人がいるかもしれません。確かに、本人本位の認知症ケアにずっと取り組んでこられた方々にとっては、そう感じる部分が多くあると思います。でも、自分たちが考えている「あたりまえ」は、必ずしも他の領域の専門職にとっての「あたりまえ」とは限りません。
この研修の目的は、認知症ケアに携わる様々な領域の専門職の方向性を一致させ、多職種協働やチームづくりにつなげていくことです。大切なのは、自分にとっての「あたりまえ」、相手にとっての「あたりまえ」を共有し、そのことを相互に活かせる仲間になっていくことだと思うのです。いろんな立場の専門職が同じ目的や目標を共有することで、初めて会話ができるようになったり協働できるようになったりするのかもしれません。認知症ライフサポート研修は、そんな多職種が出会う場として活かしてもらえればと思います。

― 最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
認知症ケアにおける多職種連携・協働の大切さは、長い間ずっと課題だと言われ続けてきたことでした。
なぜできなかったのか。それはたぶん、各々の専門職の目的意識がバラバラだったからだと考えられます。それぞれ目的が異なるアプローチに、連携とか協働が生まれてこないのはある意味当然です。
認知症ライフサポートモデルでは、専門職ごとの役割や機能は違っていても、それぞれが目指す目標は「本人が望む暮らし」を支えていくことではないかと考えました。
症状を抑えるための医療とか、世話をするための介護ではなく、本人の「やりたいこと」「したいこと」「願いや希望」を叶えることを関係者の目標として共有できれば、連携すべきことや協働すべきことが何かは自ずと見えてきます。また、同じ目標に向かっていく仲間になれば、1つ1つの取り組みの中に分かち合いたい喜びが増えてくるように思います。
「新オレンジプラン」の2つ目の柱、「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」に「本人主体の医療・介護等の徹底」とあるのは、まさにその共通の目的・目標をもててこそ実現できることなのではないかと思うのです。

編集者の一言
なにか特別なことをする必要はなく、困っているその人をありのままに支えること。認知症の方だけでなく、家族や地域の人などあらゆる人に対して「医療も介護のこともよくわからないから自分には関係ない」と思わないことが大切なんだと改めて感じました。こうした考えを持つことこそ、認知症700万人時代に正しく備える方法なのだと思います。(横尾)
認知症ライフサポート研修テキスト 認知症ケアの多職種協働実践ガイド について
認知症ケアの多職種協働実践ガイド表紙 認知症ケアの多職種協働実践ガイド目次
著者 宮島渡=監修/ニッセイ基礎研究所=編集
発行日 2015年4月20日
価格 2,592円(税込)
ご購入はこちらから
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寄稿者

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横尾千歌

介護のほんね」ディレクター。介護の用語や介護関連の仕事のこと、高齢者向けの住宅事情など、今まで縁遠かった人でも読みやすいよう図や絵とともに情報を発信します。