シニアライフオーガナイザー橋本麻紀さんのご紹介
出版の仕事をしながらシニアライフオーガナイザーとして高齢者の住まいのオーガナイズを手がける橋本麻紀さんに、シニアライフオーガナイズの考え方や、家族介護者としての想いを聞きました!
橋本麻紀さん シニアライフオーガナイザー (一般社団法人日本ライフオーガナイザー協会所属/本部スタッフ) 株式会社ランチボックス代表取締役/エディター 87歳の義母(要介護4/同居16年)、66歳の夫(59歳で脳梗塞)、高1の娘の4人暮らし。体力・気力・認知機能が衰えつつあるシニア世代が「自立した暮らし」を維持するには、住まいを整えることと、「忘れ物・探し物ゼロ」のモノの管理術が必須と実感。メディア、サポートサービス、セミナーを通して「らく・安心・心地いいシニアライフ」を応援する「シニアにやさしいお片づけ」を提唱中。 【取得資格】マスターライフオーガナイザー(認定講師)/福祉住環境コーディネーター2級/整理収納アドバイザー1級/ファイリングデザイナー2級 著書:「60歳からの笑顔で暮らせる片づけ術」 ブログ:シニアにやさしいお片づけ |
その人に合った方法で暮らしやすいおうちを一緒に作っていくのがライフオーガナイザー。
【中浜】まずは自己紹介をお願いします。
【橋本】橋本麻紀(はしもとまき)です。大学を卒業して出版社に勤務し、結婚・子育てなどライフステージに応じてフリーランスになったり再就職したりし、2009年より現職。通算30年、出版や広告の仕事をしています。編集や取材、原稿執筆などをする仕事です。ジャンルは男性向け、女性向け、子ども向けからシニア世代・介護を受けられている方々まで、と幅広くやっています。
【中浜】そんな中でシニアライフオーガナイザーになったのはどんなきっかけがあったのですか?
【橋本】まず、2009年に「ライフオーガナイザー」という職業と資格があることを知りました。その時は介護のためではなく、娘の中学受験で家の中にあふれる教材を整理することが目的でした。会社をやめて娘の受験勉強に付き合いつつ家で仕事をしようかと思ったのですが、大量に増える教材と自分の仕事のものとで家の中がだんだんカオスになっていったんです。それから時間のやりくりもだんだんできなくなってきて、娘の勉強を見たあとで仕事をしていたら寝る時間がなくなっていくような状態でした。その時、アメリカ発の思考の整理から始めるライフオーガナイズという片づけ方があると聞いて、資格認定講座を受けました。
ライフオーガナイズは簡単に言うと、思考の整理から始める片づけ術です。いきなりモノを捨てたり部屋を片づけたりするのではなく、まず「自分がどう暮らしたいか」を考え、片づけの先にあるゴールや自分の価値観をはっきりさせることを大事にします。それから自分にとって大切なものを選び取り、空間の片づけに取り掛かって暮らしやすい仕組みをつくっていきます。オーガナイズ=仕組みをつくるという意味です。時間も同じように整理していきます。「自分にとって何が大事か」「優先順位の高いことは何か」「自分にとって無駄な時間、しなくていいことは何か」を考えます。そうすると、1日がただバタバタして終わることなく過ごせます。そうしたすべてに応用が効くスキルだったので面白いなと思って興味を持ちました。そして所定の資格を取得すると、ライフオーガナイザーという片づけのプロとして仕事ができるわけですが、わたしは資格を取ったあとはライフオーガナイザー協会の本部スタッフとして、認定講座のサブテキストになるような書籍を編集したり、セミナーや片づけサービスをしたり、出版・広告の本業を続けながら二足のわらじでやらせていただいています。
今、片づけを仕事にしたい人は増えていて、ある女性誌のアンケートでは整理収納アドバイザーやライフオーガナイザーが憧れの仕事第1位なんだそうです。主婦の方が社会復帰するにもいい仕事ですね。
【中浜】家でやっていることプラスアルファでできることですね。
【橋本】はい。ただ、ライフオーガナイズというのは単純な家事代行業ではないんですね。お客さまの思考の整理のお手伝いから始め、その方に合った収納方法や片づけ方を一緒に考えて、その方が暮らしやすく維持しやすいおうちを一緒に作っていく……。つまりお客さまに寄り添うように伴走しながらサポートするのがライフオーガナイザーです。
誰かが家の中を整えてあげることで、その人が一人でできることは増えていく。
【中浜】シニアライフオーガナイザーというとどういうものになりますか?
【橋本】シニアライフオーガナイザーは文字通り、高齢の方々が暮らしやすいように住空間を整えていく片づけのプロ(オーガナイザー)のことです。家が片づかないために生活の質が下がることってありますよね。銀行や病院に行っても、あれがない、あれを忘れた、と、いつも探し物ばかりしていることがあります。ヘルパーさんがせっかく来てくれても探し物で終わってしまう家庭もありますし、いざというときにご家族が通帳や貴重品を探すだけでもヘトヘトという場合もあります。シニアの片づけは、モノを捨てるということよりも、その人が自立できること、安全であること、必要なものを探し回ることなくサッと出せること、困った時はだれかが代われるようにすること。そういう住空間を目指すべきだと思っています。
【中浜】たしかに今の片づけブームは捨てることや畳み方といった「手段」の話が多いですよね。でもライフオーガナイズは「目的」をはっきりさせることが最初にあってイメージしたものと違いました。
【橋本】いま日本にある片づけ術は正しい手段を教えるものが多いですが、それは単にテクニックの問題であって、大事なことは違うところにあると思います。大事なのは、その人が自分のことを自分でできること。特に高齢者を対象とした場合、片づけも介護と同じだと思うのですが、なんでもかんでも「やってあげましょう」と手助けするのがいいわけではありません。自分でできることまで奪ってしまったらその人はいちいち「ありがとう」「ごめんなさい」と言わなければならず、自信も尊厳も失ってしまうと思います。もし家が片づいていないことで生活の質が下がっている高齢の方がいるなら、直接手を貸すのではなく、家の中を整えることで、その人が一人でできることを増やしていこう。それがシニアライフオーガナイズではないかとわたしは考えています。
義母の介護で試行錯誤して生まれたさまざまなオーガナイズの工夫。
1. 糖尿病の薬の管理の工夫【橋本】わたしが同居している義母の部屋を片づけようと思ったきっかけは、義母が糖尿病で通院して薬をもらっているにもかかわらず、血糖値がずっと下がらなかったことです。大きな病院に連れて行って検査入院したら、本人が薬もインスリンの注射もしなくていいと思い込んでいたことがわかりました。その時、認知症が始まっていたのですね。義母の部屋に入ったら、部屋はきれいでしたがよく見るといらないものもあって、やはり薬や注射が薬局の袋に入ったまま残っていました。そこで片づけを始め、訪問介護や訪問看護の方に協力してもらいながら薬ケースを用いたり、注射のセットをつくったりしてからは、薬の管理やインスリンの注射がまた自分でできるようになりました。
2. 出かける時に小さなものを忘れない・探さない工夫【橋本】薬や注射のリズムがきちんとつくれるようになってしばらくして、今度は小物が迷子になるというので、カバンに紐をつけてカギをつけたり、一緒に使うものはポーチにまとめたりして、忘れ物や探し物をしない工夫をするようになりました。
3. 衣類の整理の工夫【橋本】またある時は、真夏なのにカシミヤのセーターを着て暖房をしてフラフラになっている義母がいました。そこで夏物以外は見えない引き出しに片づけるようにしました。それから白内障の手術をしていて色の境目がわかりにくいようだったので、入れ物が黒だったら中に入れるものは白っぽい色にしてメリハリをつけたり、すべてベージュで見分けがつかない下着類は、アイテムごとにケースの色を白と黒に分けて識別しやすくしたり……。そうやって試行錯誤してきました。
家族介護者として、笑顔でいられることを考えるようになった。
【中浜】橋本さんは、ご家族の介護も経験されていますが、家族介護者としてどのように介護と向き合ってこられたのかお聞かせください。
【橋本】最初は義母が認知症とわからず、100回言っても100回同じミスをするのを「どうして?」と思っていました。そこで脳卒中で高次脳機能障害を持つ友人に脳機能の専門医を紹介してもらい、相談半分・取材半分で話を聞きに行きました。すると「70歳を過ぎたらなかなか新しい習慣は身につかないものですよ。認知症ならなおさらです。それよりもお母さんが1日のうちに好きなことをしていい笑顔をする瞬間があるはずだから、その時間を増やしてみて。そして料理など得意なことをしてもらって『ありがとう』と伝える機会をどんどん増やしなさい。それが認知機能をキープする秘訣かもしれないから。そしてあなたが元気でいることが一番大事。あなたがイライラしたり疲れていたらお母さんの調子も悪くなる。あなたが元気でお母さんに接していれば、お母さんの調子もいいはずだからね。デイサービスでも老健施設でも介護のプロに任せられることはどんどん任せたほうがいい」と言われたんです。すごく気がラクになりました。それからは義母をはじめ家族みんなが笑顔でいられることを真剣に考えるようになり、そのためにも家の中を整えていこうと思うようになりました。
家の中を整えていくと、やはり自立できることが増えるんですね。薬の管理も着替えも食事も買い物も……。もし何か失敗したときは、責めるよりも前に「もっと簡単にできる仕組みはないか?」を考えたほうがずっと建設的です。「お母さん、これできていないじゃないの!」と怒ったり、「わたしがやるからもうやらなくていいわ」などと取り上げてしまったら、義母のプライドは傷つくし、落ち着いてやればできることまでできなくなります。自分でできれば自己肯定感も高まるので、一人でできることまで奪ってしまわないようにと心がけています。義母が一人でできることが多いほど、結果的に夫やわたしもラクでいいことづくめです(笑)。
【中浜】その人が自分のことは自分でできるように仕組みづくりをするということですね。
【橋本】まさにそうです。それは介護にも言えることで、自分でできることをさせず家族がすべて介護しようとしたら、どうしても手が回らず、結局寝かせきりになると思います。わたしはできることは本人にしてもらい、プロに任せることは任せ、いつまでも親を尊敬していられるような関係でいようと思っています。義母は認知症がだいぶ進んでトイレもお風呂も介助が必要ですが、わたしが朝ごはんを運んだり何か手伝ったりすると、「どうもありがとう」と必ず言ってくれます。デイサービスのスタッフさんがお迎えに来ると、「お待たせしてごめんなさい」とも言います。認知症であっても、品性や習慣が失われていない義母をすごいなと感じます。
【中浜】年をとると「ありがとう」という言葉がよく出るようになる方と、「ばか」という言葉がよく出るようになる方がいると感じています。どうしたら「ありがとう」という言葉がよく出る人になるのでしょうか?
【橋本】もともとの性格や育ち方もあるとは思いますが、こちらから「ありがとう」とたくさん伝えることではないでしょうか。人って「ありがとう」と言われると気分よくできますよね。だからできることをたくさんやってもらって「ありがとう」とこちらから伝える。いくつになっても承認欲求はあって、人の役に立っていると実感できるとうれしいし、やる気が出るものだと思います。「ばか」と言ってしまう人はもしかしたら、ずっと家族のために一生懸命やってきたのに、たいして感謝もされてこなかった人生だったり、最近「ありがとう」と言われていなかったりするのかもしれません。こちらから「ありがとう」といい続けていたらオウム返しのように変わるのでは、と期待を込めて思います。
【中浜】僕は仕事で介護をしていますが、家族が介護をするのはまた別物だと感じています。
【橋本】年をとると病気をしたり、思うように動けなくなったり、働きたいのに働けなかったり、親しい人が亡くなったり……と、笑えない要素が増えていくように感じます。介護する子どもも「昔はあんなにしっかりしていたのに」と老いてしまった親の姿を受け入れにくく、気持ちがささくれだってしまうこともあると思います。気持ちに余裕がないと、親に対してきつくあたってしまうこともあるかもしれません。だからこそ、本人はもちろんのこと、家族も少しでもラクに、あれこれ抱え込み過ぎず、やさしい気持ちで笑っていられるようにすることが大事なのではないでしょうか。相談した医師がおっしゃる通り、そのために介護のプロの手を借りることはまったく恥ずかしいことではなく、むしろよいことだと思います。
片づけることで暮らしやすくする。そんな仕組みを作れたら。
【中浜】片づけることによって自分でできることが増えるなら、オーガナイズをやる価値はとても大きいなと感じました。自立できるように、というのはまさに介護保険の目的と同じです。それから片づけが原因で親子関係が悪くなる人はとても多いと思います。家族が片づけをしてあげられたらいいですが、できない家庭もあります。橋本さんはこれからどんなことに取り組んでいきたいですか?
【橋本】まず、親御さんが片づけられないからと、怒ったり、モノを勝手に捨てたりしてトラブルになるケースを聞きますが、「親の家の片づけ」の目的は、ショールームのようにスッキリときれいにすることではなく、「いつまでも自立して安心安全に暮らせるために行うもの」ということを、子ども世代の方々にはご理解いただきたいですね。親子でいられる時間にも限りがあります。片づけが原因でもめるなど、もったいないことです。
片づけのプロに依頼する際、料金が気になると思いますが、オーガナイズサービスの場合は1時間4000〜5000円程度が相場です。図面を描いたり、収納用品を調達したり、作業前の準備やアフターフォローにも時間がかかりますのでこのような数字になってしまいます。でも実際のところ、年金生活の人が支払うにはなかなか厳しい額ではないでしょうか。しかし現実に、要介護状態でないためヘルパーさんに来てもらえない方や一人暮らしの方など片づけに困っているシニア世代は大勢いらっしゃいます。「ゴミ屋敷問題」などマスコミにもすでに取り上げられていますが、これから超高齢化社会に突入する日本において、「シニアの片づけ」は社会問題になるのではないかと思っています。アメリカではすでに、オーガナイザーが医師や福祉・介護のプロと連携して片づけをサポートする事例もありますし、オランダでは、発達障害など何かしらの問題のために「慢性的に片づけられない」と認められた人は、保険適用で片づけサービスを受けられるそうです。日本でも早くそうなればいいな、行政や保険制度を巻き込んでもっと手軽に片づけサービスを受けられるといいなと、本気で思っています。たとえば70歳になったら片づけをしてもらえるチケットが自治体から支給される、など、自動的に片づけのプロが入っていける仕組みが導入され、自立して暮らせる人が増えるといいと思います。また、古い公団住宅などをリノベーションしてシニアオーガナイズハウスをつくりたいという願望もあります。段差をなくしたり手すりをつけたりするだけじゃなく、高いところに上ったりかがんだりしなくてもラクにものが出し入れできたり、力が弱くなっても扉や引き出しがスムーズに開け閉めできたり、探し物や忘れ物をしなくてすむ収納システムになっていたり……、というシニア世代がラクに自立して暮らせる家づくりをしたいと思っています。
これからの時代、高齢者が笑って暮らせる仕組みづくりを行政と民間が一緒に考え、協力しながら取り組む場面は増えていくのではないでしょうか。家の中で過ごす時間の多いシニア世代にとって家が片づいているか否かは、暮らしの快適度を大きく左右します。ですからわたしは、「片づけ」の種まきをコツコツやっていけたらと思っています。
30代、40代、50代の人たちには、今からできるだけご自身たちの手で住まいを整えていってもらいたいですね。そうすればシニア世代を迎えた時、オーガナイザーからもちょっとしたアドバイスだけで済むかもしれません。だから子ども世代にも広めていき、プロの手が必要になった時は気軽にサポートを受けられるような世の中にしたい。あと10年くらいのうちには実現するのでは……と、希望を持って活動していきたいと思います。
編集者からの一言
片付けと聞いて「しまうこと」というイメージがありましたが、橋本さんのお話を聞き、「なぜ片付ける必要があるのか」という目的の重要さと、片付けることはしまうこと・捨てることとイコールではないということが心に残りました。片付けることは生活しやすくすることであるため、一人一人の生活や状況を見ていくことがとても大切なのだと思います。
一人で生活できる環境作りから、自立した個人生活を作ることで介護予防や要介護状態になったとしても、個人として納得した自分らしい生活が生み出す事が可能なのだと感じました。
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この記事の寄稿者
中浜 崇之
二代目編集長。介護福祉士、ケアマネジャー。2014年に世田谷デイハウスイデア北烏山を立ち上げる。2010年より「介護を文化に」をテーマに介護ラボしゅうを立ち上げ運営中。(http://kaigolabo-shuu.jimdo.com/)